2013(平成25)年は、文学者、画廊主、美術収集家、そしてエッセイ「気まぐれ美術館」の書き手として知られる洲之内徹(1913-1987)が生まれてちょうど100年目にあたります。愛媛県松山市に生まれた洲之内は、東京美術学校建築科在学中、左翼運動に加わって同校を退学となり、戦時中は軍嘱託として中国に渡りました。帰国後小説を書き始め、芥川賞候補に三度なりますが受賞することはありませんでした。1959(昭和34)年、戦時中に知り合った作家の田村泰次郎(1911-1983)の現代画廊に入社し、1961年からはその経営を引き継いで、個性あふれる数多くの作家を紹介しました。また1974年からは『芸術新潮』誌上に「気まぐれ美術館」の連載を始め、その独特の語り口は多くの熱心な読者を獲得し好評を博しましたが、1987(昭和62)年帰らぬ人となりました。
洲之内が最後まで手放さなかった「洲之内コレクション」は宮城県美術館に収蔵されています。本展では、このうちの半数をこえる作品のほか、彼の著作の中で語られた作品、現代画廊の初期や洲之内が引き継いだ後の作家の作品など、総数約190点と関係資料によって、洲之内徹と美術との関わりをあらためて見直します。このことは昭和を生きた一人の人間の足跡を通じ、戦後の新しい近代美術史像が生成される過程のひとこまを垣間見ることであるとともに、なぜ人はかくも美術に愛着をもつのかという問いに思いをはせることともなるでしょう。