柔らかにカーブを描く引き出しの家具。虚実のあわいに漂うような透明な硝子の椅子。倉俣史朗(1934-1991)の世界を前にすると、デザインに対する私たちの考え方は解放され、夢のような境地に誘われます。
倉俣史朗は、インテリア・デザイン、家具デザインにおいて傑出した仕事を残しました。60年代半ばから、いち早く商業空間に斬新な発想でデザインを施し、美術家とも協働して店舗の内装を手掛けます。また、デザインを根本から問い、人間とものとの詩的な出会いをもたらすさまざまな家具を制作しました。その活動は世界からも注目され、81年にはミラノのデザイン集団「メンフィス」に参加します。この頃を境に倉俣の表現は変化し、70年代までのコンセプトを重視した手法を発展させながらも、創造 (デザイン) の喜びに満ちた作風があらわれるようになります。こうして、赤い薔薇が浮かぶ透明なアクリル椅子《ミス ブランチ》などの名作が生み出されていきます。そこには、倉俣が追い求めた重力を打ち消す軽やかさ、すなわち自由を象徴する浮遊感覚が見事に結実しています。
この展覧会では「浮遊するデザイン」をキーワードに、倉俣の代表的な作品を展示し、ブティックの内装の仕事なども紹介します。また、若き日の倉俣が影響を受けたもの、更には親交のあった美術家やデザイナーの作品もあわせて展示します。倉俣のデザインが、時代を超えて愛される理由を探る、絶好の機会になるでしょう。