中国の皇帝や文人たちは、美しい石に対して、古くから愛着を持ち、庭園の中に置いたり花の傍らに配したり、あるいは書斎の中に飾ったりして楽しんでいました。宮殿の庭園を飾るために、珍しい花や貴重な石を大量に集めさせた皇帝徽宗(きそう)の花石綱や、奇石を愛するあまりそれに拝礼したという米芾(べいふつ)の拝石など、石を愛する中国人のエピソードは数多く知られています。愛石趣味は中国にとどまらず、日本や朝鮮半島にも広がっていきました。花や庭園と共に石の美を愛でる文化は、絵画や工芸品の制作にも反映されています。花鳥や庭園を描く絵画に石の存在は欠かせませんし、石への愛情に満ちた文章を伴う奇石図も制作されました。また、石は花や鳥と共に工芸品の装飾にも用いられていきます。この展観では、東アジアで制作された花鳥図や庭園画、奇石図を並べて石の形状や質感へのさまざまな興味のあり方を紹介します。また、花や鳥の傍らに、きらめく螺鈿(らでん)や色鮮やかな釉薬(ゆうやく)で石が表される漆工や陶磁器作品から、石モチーフの装飾化の流れを追い、さらに枯木(こぼく)図や墨蘭(ぼくらん)図などを通じて、水墨表現と石の美の関わりを探ります。美術作品の中に表現されていく過程で、石は現実のそれとはまた異なる種類の美を獲得していきます。この展観を通じて、東アジアで愛された石の美しさへの理解が深まれば幸いです。 (担当 植松瑞希)