佐藤慶次郎(1927~2009)は作曲家として戦後の日本前衛芸術の牽引役を担った実験工房に参加した後、エレクトリック・オブジェの制作へと活動の幅を広げた。磁場や磁石が生む振動を利用したそのオブジェは人為を超えたパフォーマンスを生み、見る者は無垢な心がままに目の前に起こる現象へ誘われるであろう。
1967年に発表された音響オブジェに端を発するオブジェ制作は1970年代初頭、壊れたスピーカーとイヤホーンのマグネットを手にしたことから始まった磁性との戯れから「振動するオブジェ」へ発展してゆく。振動する軸とそこに貫かれ緩やかな運動をする球体、忙しく活動するマグネット素子、さらに水流が導く色彩の混交は、オブジェの存在から解き放たれ、無数の表情に満ちている。
現象として起こるそれらの動き。そこには佐藤が込めた思いがあった。それは「人ガ歩キ鳥ガ飛ブトイウコトノ不思議サト同ジモノ」。佐藤はこの一文を含んだ、オブジェについての核心的な記述を残した。そのタイトルが「モノミナヒカル Everything is expressive」である。
佐藤は2009年に逝去した。本展は、音楽と美術の両側面から芸術表現に臨んだ佐藤の、没後初めての展覧会となる。オブジェの他、作曲活動や佐藤が関わった仕事―例えば日本万国博覧会―そしてジョン・ケージや川端実、恩師早坂文雄など周囲との関係を知る展示、古美術蒐集品から佐藤慶次郎へ接近する機会となろう。