本展観は、白描図像が持つ特有の観賞性に注目し、その魅力をご紹介するものです。仏の姿や形を記す「図像」は、宮中での密教修法の盛行と並行して、平安時代半ば頃から盛んに著されるようになります。簡略な筆致で描かれた、学侶が日常に用いるものから、本尊画像に匹敵するような観賞性の高い図像も描かれるようになります。専門の絵仏師のみならず、優れた画技を持つ僧侶によっても描かれました。定智・玄証・信海といった平安時代末期から鎌倉時代にかけての画僧が知られています。このような図像の集積が、鎌倉時代以降の作例に見られる、経典の規範から解放された、学侶や発願者の思想を強く反映した仏画制作へと繋がります。
展覧会では、関連する作例が数多く伝わる「玄証本図像」、詫間為遠筆の伝承を持つ「金胎仏画帖」を中心に、画僧や絵仏師によって著された図像をご覧頂きます。これらの図像には、単なる転写に留まらない独特の画趣が現れ、同時代の彩色された仏画と共通する表現上の特色や形態把握の感覚が見出せます。さらに、複数の図像を抽出し一図に再構成して描いた仏画に注目します。図像が単なる「ほとけの形」の継承に留まらず、構図や表現にまで新たな影響を与えた点を明らかにしたいと思います。線描で描かれた図像から生まれた、清雅な美の世界をお楽しみ下さい。