「いつごろから花が好きになったのかはっきりした記憶はないが、少年の頃から花の名前は数多く知っていたほうだ。」(『路―夢ごよみ』より)
野原を駆け回るやんちゃ坊主だったと自称する平松画伯ですが、もともと「花好きの筋」があったのでしょう。母親が家業としていた生け花の手伝いをするうちに花の名前を覚えてしまったといいます。また、結婚してからは、小さな借家の片隅に花壇を作った花好きの夫人の影響もあり、花の庭は転居をするたびに大きくなっていきました。
本格的に花づくりに夢中になるのは、鎌倉に居を構え庭の面積が一気に広がってからといいます。ちょうどこの頃、パリでの個展を機にクロード・モネの作品に出合います。モネも無類の花好きで、自宅の庭に100種類もの花を自ら育成していました。画伯が、印象派のジャポニスムの研究の際にモネを中心に据えたのは、その作品が日本的であったこともさることながら、モネが花づくりに夢中になっていたことに、自身を重ね合わせたからではないでしょうか。
現在、鎌倉と軽井沢に花の庭を持つ画伯は、自身が丹精込めて育てた花を慈しむように描いています。今回の企画展は、四季折々の可憐な花の素描を中心に紹介いたします。