観念的なものからリアルなものへ、情緒的なるものから理性的なものへ。それは初めて親しい地上の世界へと、人々の眼が移っていったことを表しています。例えば、似絵と呼ばれる「随身庭騎絵巻」(国宝)には、前代には見られなかった写実性や積極性を感じ取ることができます。また、この時代に共通して見られるのは宋元画の影響です。鎌倉時代では「仏涅槃図」のような明快な色彩感覚や迫真的な面貌をもつ仏画に、さらには禅僧らによってもたらされた水墨画にこれは見受けられ、室町時代においては、宋元画を基盤として発生した初期狩野派の「鶏頭小禽図」に代表される漢画へと、脈々と受け継がれています。これら展示品の数々から、豊かな展開をみせたこの時代に一貫して流れる深い精神性をも読み取っていただけると考えております。