物語絵の魅力は何より、あこがれの主人公を愛でる愉しみです。さらに、画家が絵の背景に託した工夫も、大きな見どころです。
例えば、在原業平の物語で知られる『伊勢物語』から「宇津の山路」の話に惹かれたのは、日本画家・今村紫紅です。紫紅は、草木がうっそうと茂る様子を筆でたたくように描いて、昼なお暗き山路を表わしました。こうした画家の演出が、物語の世界をより豊かなものとしています。
本展では、静岡県立美術館と佐野美術館のコレクションから、先の「宇津の山路」など約65点の物語絵を紹介し、筋書きと舞台背景をやさしくひも解きます。昔話の主人公たちに近づき共感する内に、生きる知恵を見出すこともあります。しばし日常を離れ、かれらの心の声に耳を傾けてみませんか。かつて人気を博した主人公たちが、今ここによみがえります。