武者小路実篤や志賀直哉らによって創刊された『白樺』は、個性の尊重を主張した文芸雑誌として知られています。しかし、『白樺』は文芸雑誌であるばかりではなく、毎号必ず海外の美術作品を写真図版で紹介し、芸術評論も掲載する美術雑誌でもありました。同人たちの熱い思いによって紹介されるゴッホやセザンヌやロダンは、その後の日本人の美術の嗜好にも絶大な影響をおよぼしました。さらに『白樺』は18 回にわたる美術展覧会を主催し、美術の普及啓蒙につとめると同時に、美術館建設という壮大な夢さえ描きました。
また、個性の尊重を高らかにうたった『白樺』同人たちの主張は、若い芸術家から支持され、その思想は同時代の芸術思潮にも波及しました。同人でもあった有島生馬や『白樺』と密接なかかわりにあった高村光太郎など、その周辺には多くの若い芸術家が集まりました。岸田劉生や梅原龍三郎らは『白樺』によって育てられた画家といっても過言ではありません。
本展では、『白樺』が紹介したセザンヌやロダン、ロートレックやビアズリーなどの西洋の作家の作品や高村光太郎、岸田劉生、梅原龍三郎ら『白樺』に密接にかかわった日本人作家の作品に加えて、同人の書簡や原稿などを展示し、『白樺』を多面的に紹介します。