1960年代後半から顕著になるプライベートな眼差しで日常的な光景を切り取った稲越功一(1941-2009)の写真表現は、その後の日本の写真に新たな水脈をもたらしたといってよいでしょう。稲越功一は、コマーシャル写真家として活躍を始めると同時に、自分自身のために写真を撮り始め写真集『Maybe maybe』(1971)を刊行し、シリアス・フォトの写真家として注目を集めます。その後も、コマーシャル写真家や肖像写真家として多彩な活動を展開する一方、プライベートで純粋なスナップショットの眼差しで風景を撮影し続け、写真集『記憶都市』(1987)、『Out of Season』(1996)、『Ailleurs』(1996)などを刊行していきます。
本展覧会では、70年代初頭に注目されたスナップショットの眼差しの系譜を、日常的な光景をモノクロームでとらえた作品を中心にたどります。写真家稲越功一の原点があきらかにされるだけではなく、シリアス・フォトの眼差しがとらえた時代の風景、時代の感性が見て取れるはずです。