柴田敏雄は東京芸術大学・同大学院修士課程終了後、ベルギーの王立アカデミー写真学科入学。留学を機に写真を撮り始め、帰国後の1980年代後半に、ダムやコンクリートに覆われた造成地など人工的に変容された風景を独特の視点で捉えた写真で注目されました。
'92年、その年に写真界に一番影響を与えた新人に贈られる木村伊兵衛写真賞を受賞。大型の8×10カメラを使い、克明に表現された柴田の写真は、客観的に普遍的な風景を捉えているように思われます。しかしその中に日本ならではの風土や社会問題を想起させ、見るものに強い印象を与えてきました。静謐で抑制された写真から、まず自然の中に組込まれている人工物の美しさに目を奪われ、その後に自然に対する警鐘を感じ取ることができます。
'90年代後半からはアメリカ各地のダムも撮影しており、その対象は日本国内だけではなく拡がりを見せています。特に地名などがすぐに分かるようなものは一切写り込んでいないにもかかわらず、それぞれの国や地域の微細な差異が、あたかもそれぞれの土地の抱える問題として、凝視すればするほど浮き出てくるように感じられるでしょう。
国内だけではなく海外の多くの美術館にも作品が収蔵されているなど評価が高いにもかかわらず、これまで国内の美術館においてその軌跡を辿ることができる機会はありませんでした。今回は東京都写真美術館と作家が収蔵している作品を中心とし、近作のカラー作品の展示も併せて行い、現時点での柴田の活動を振り返ります。