大正から昭和前後にかけて、東都を中心に伝統から脱した新しい茶の湯が誕生します。その中心にあった人物は三井物産初代社長益子孝・鈍翁(1848-1938)です。大正2年頃、鈍翁は一人の青年と出会います。愛知県一宮苅安賀の素封家森川勘一郎(1887-1980)、後の妙春庵です。妙春庵は幼少期から茶の湯の修練を重ね、また天性の優れた審美眼によって多くのめ遺品を所蔵します。ことに妙春庵は16際で本阿弥光悦作の「時雨」を、また19歳で同じく光悦作の「乙御前」を所持しますが、10代に光悦の名碗を所持した妙春庵の感性は鈍翁を驚かせ、39歳の年齢差を越えた交友を深めてゆきます。鈍翁を中心とする東都の数奇者たちと付き合うなかで「佐竹本三十六歌仙絵巻」切断の際に一番籤を引き、あるいは「紫式部日記絵詞」を見出すなど、妙春庵の生涯には多くのエピソードがあります。
この度の特別展では妙春庵が生前に名古屋市に寄贈した作品約50点に、個人と各地の博物館・美館収蔵の妙春庵及び鈍翁ゆかりの作品を加え、東都や中京の数奇者たちの親交の様子を紹介いたします。
「織部筋兜香合」など、これまで東京tで公開されることが無かった名品をお楽しみいただけると思います。