私たちに最もなじみの深い仏さま、観音。
もともとは梵語でアヴァローキテーシュヴァラ、漢訳されて観世音または観自在と呼ばれる仏教の代表的な菩薩(悟りを求め、衆生を救うために多くの修行を重ねる者)です。その名が意味するように観音(観世音・観自在)は、苦悩する世間の人々の音声を自在に観じるとされ、衆生を災難から救う慈悲の精神を人格化した仏さまとして、熱烈な信仰をあつめました。
その信仰は、鳩摩羅什(344-413)が漢語に翻訳した法華経(妙法蓮華経)、なかでもその一章である普門品(観世音菩薩普門品)第二十五を通じて流布しました。この普門品は「観音経」の別名で独立してひろく読まれ、観音信仰の大きな拠り所となりました。その経文には、もしその名を称えれば災いから救済され、また姿を千変万化させてこの世のあらゆる場所に現れる、という観音の功徳が語られています。
今回のトピック展示では、このように多彩に変化する姿形や諸難救済の情景をテーマとした作品をあつめて、いにしえの人々が観音によせた願いと祈りを、東アジアの中国・朝鮮・日本で描かれた仏教絵画を通してご覧いただきます。