愛娘をモデルとして描いた「麗子像」で広く知られる岸田劉生(1891-1929)は、大正から昭和の初めにかけての日本洋画において、独創的な活動を展開した画家のひとりです。38年という短い生涯にもかかわらず、画家として極めて変化に富んだ制作を行いました。
劉生は17歳で白馬会の洋画研究所に入ると黒田清輝に油彩画を学び、まもなく、文芸雑誌『白樺』を通じて知ったゴッホやセザンヌら後期印象派の影響を受けます。その後、デューラーや北方ルネサンスの写実に傾倒して、独自の写実を追及し、人やものの存在を深く見つめる「内なる美」の探求へと進むと、人やものが存在することの不思議さと向き合い、対象の確固たる存在感やその本質を描き出そうとしました。大正時代の後半からは、一転して東洋美術、特に中国の宋元画や初期肉筆浮世絵に接し、その東洋的な美に惹かれて自らの芸術に反映させていきました。
本展では、笠間日動美術館の所蔵作品に特別出品を加え、自画像や麗子像などの油彩画をはじめ日本画、水彩、素描、装丁画を含む約70点により、岸田劉生の芸術をご紹介します。