明治から大正への転換期、徐々に活気を増しつつあった筑豊炭田の中心・田川で、石井利秋(1911-2001)は生まれました。14歳にして三井田川鉱業所に職を得て坑内で働くようになると、以後、1964年の閉山まで一貫して炭坑に生き、その一方で画業を展開していきます。
抽象画を主流とするモダンアート協会に参加し、形や色の効果による抽象表現を探求した時期を経て辿りついたのは、自らが身を置く炭坑を具象的に描くことでした。女坑夫たちの労働や、仕事の合間に語り合うようす、父親の昇坑を待つ幼子の姿、そして坑内災害をめぐるさまざまな人間模様。翡翠のように美しい緑青は、炭坑に生きる喜びや悲しみを描こうとする中で生まれた、独特の色彩表現でした。
連続企画「炭坑と画家」の3回目となる今回は、約80点の作品により、石井の愛した炭坑をご覧いただきます。
また、石井の主宰した0(ゼロ)会によるグループ展「0(ゼロ)展」 (観覧無料) を同時開催し、石井の志を受け継いだ愛弟子たちの作品をあわせてご紹介します。