現代美術作家・河口龍夫(1940~ )は、1970年来〈関係〉という独自のテーマの下に、様々な現象を視覚化する作品を制作・発表してきました。熱や光、電流といったエネルギーの流れ、鉄や銅の錆による質の変化、さらには種子と鉛による作品など、それらは存在と不在、見えるものと見えないものを対比させながら、決して概念的な意味に止まらず、人間、物質、社会の間に横たわる世界観までをも“黙示”します。
1970年代以後の現代美術が、素材やテーマを開拓し、彫刻から空間としての作品へと展開して行った潮流の中で、河口龍夫の作品は物質的な表面を見せながらも、生命や死、悠久の時間の流れや宇宙など、観る者を哲学的な思索へと誘う表現を展開してきました。環境や生命といった今日的かつ永遠のテーマを、繊細かつ抒情的に表現したその独自な手法は、国内外で高い評価を受け、その表現は今日、ますます深化しつつあります。
兵庫県立美術館と名古屋市美術館では、河口龍夫の表現について共通の認識に拠りながらも、各美術館独自のアプローチと解釈によりテーマを立て、従来の巡回展ではなく、同時開催の形で展覧会を開催することとなりました。作家の出身地である神戸の兵庫県立美術館では、70年代の作品から、光と闇をテーマにした作品、さらには蓮をモティーフとした作品群を、一方、久々の名古屋での発表となる名古屋市美術館の展示では、種子と鉛による作品を中心に、それぞれ知覚の問題や時間の観念、生命についての考察を誘う作品を構成し、紹介いたします。また、兵庫・名古屋両方とも回顧展という形態ではなく、新たなインスタレーション(空間)作品を制作・公開いたします。
空間の規模や構造が異なる二つの美術館での同時開催という、かつてない規模と形態で開催されるこの二つの展覧会は、二つの都市と美術館が時間を共有し、連動しながら、河口龍夫作品の魅力はもとより、作家自身が“精神の冒険”と呼ぶ美術の魅力や現代美術の現況、さらにはその接し方までも楽しんでいただけるものになるでしょう。ぜひご高覧下さい。