隔年で開催してきた新春の特集陳列です。
蒔絵は、漆の接着力で金銀の粉末を器物に固定して文様を描く工芸技法です。中世までは主に貴族階級の調度品を装飾する芸術でした。近世初頭になると、武士階級の台頭にともない、それまでほとんど蒔絵がなされなかった建築部材や日用の飲食器にまで金粉がちりばめられ、豪奢な漆器が出現します。
これが「高台寺蒔絵」で、秀吉の妻、おねが夫の菩提を弔うために建立した高台寺に由来します。同寺の蒔絵厨子や須弥壇、秀吉夫妻ゆかりの調度類など、黒漆地に簡素な蒔絵技法を用いながらも、秋草などをじつに華やかに描いた漆器がその典型です。
一方、当時来日した西洋人、「南蛮人」たちもきらめく漆器に魅了され、キリスト教の祭礼具や箪笥、櫃などの家具を蒔絵で飾るよう注文しました。この西洋人向きの漆器を「南蛮漆器」と呼びます。同時代の漆器ですが「高台寺蒔絵」とは全く仕様が異なり、海洋民族好みの貝の象嵌(螺鈿)が多用されています。大航海時代の贈答品、貿易商品として人気を博し、大量の南蛮漆器が南アジア、南アメリカ大陸、ヨーロッパへ渡っていきました。
この特集陳列では、「高台寺蒔絵」と「南蛮漆器」の優品を一堂に展示いたします。桃山時代に花開いた二つの蒔絵様式をどうぞご堪能ください。