経済破綻、テロ、自然災害に見舞われた1990年代以降の日本では、経済・宗教・自然に対する信頼感が失われ、価値観がゆらぎ、かつてのような可能性に満ちた明るい未来予想図を描くことが困難な時期にあります。その一方、若者を中心に人々はパソコンのモニターの中のバーチャルな世界で繰り広げられるコミュニケーションに慣れ、生の実感や生命に対するリアリティを失いがちです。
同時期に、日本製のマンガやアニメは急速に世界で広まり、大衆文化のスタイルを用いたアート作品が、海外において日本の現代美術としての評価を確立しました。そして水戸芸術館現代美術センターでも、フィギュアやグラフィティなど、従来サブカルチャーの分野としてとらえられていた表現の大規模な展覧会を近年開催し、美術館という場でアートの概念を自ら解体/再構築する試みを行っています。
本展覧会では、このような近年の社会背景や現代美術、美術館をめぐる状況を射程に入れながら、現代美術のアーティストだけでなく、マンガ家やHIV予防運動にとりくむアクティビスト、障害を持ちながら制作活動を行う作家など、さまざまな分野からボーダーレスに選ばれた13人の表現者の生命力に溢れた作品を紹介します。原初的な衝動に支えられ、人間の生きる意味や、生命、自意識などの本質的な問いをダイレクトに投げかける作品が、表現のジャンルや、社会における立場の違いを乗り越え、ギャラリー空間で出会い、生命のエネルギーに溢れる場を創出するでしょう。