このたび笠間日動美術館では『もののかたち いのち 熊谷守一展』を開催致します。明治13年(1880)、木曽御嶽山のふもと岐阜県恵那郡付知村に生まれた熊谷守一は、明治33年(1900)東京美術学校に入学、黒田清輝に学んでいます。卒業後に描かれた自画像「蝋燭」が文展で褒状を受賞し、嘱望される画家の一人となりました。ところが母の死をきっかけに帰郷、山仕事に明け暮れに6年の歳月をおくります。こののち山を下り再び上京しますが、絵はなかなか描けず、家族を抱えて窮乏の日が続きました。しかしこの時代、少ないながらも後世にのこる作品を描き、今日私たちがイメージする熊谷独特の画風へと変貌をとげていったのです。
後半生の熊谷は、東京豊島区の小さな家が全宇宙であるかのような毎日を過ごしています。石ころを眺めているだけで何日も何日も暮らせるとさえ語りました。早朝に目覚め、庭木をいじり、虫を眺め、妻と碁を打ち、昼寝をし、絵を描き、そして眠る・・・。穏やかな日々のなかで、小さな庭の生き物や草花をじっくりと観察し、そのかたち、そしていのちをいつくしみ、単純化して描いていきます。これらの作品は「天狗の落とし札」と称され、文化人や経済人をはじめ多くの人を惹きつけていきました。そして昭和52年(1977年)、97歳の天寿を全うしたのです。
今展覧会では、岐阜県美術館、天童市美術館、名古屋市美術館の熊谷守一コレクションに笠間日動美術館、個人所蔵家などの油彩、初公開を含む墨彩画、デッサン、愛用品など80余点を展示いたします。「画壇の仙人」とよばれた熊谷守一の、明治、大正、昭和にわたる長き画業をお楽しみ下さい。