ID:79104
ティム・ヘミングトン《噴:Erupt》 Tim Hemington "噴: Erupt"
Venue
ヒノギャラリー
hino gallery
Period
2025年3月8日 ー 2025年3月29日
Exhibition Outline
ティム・ヘミングトン《噴:Erupt》 ティム・ヘミングトン《フン:Erupt》
Tim Hemington "噴: Erupt"
ヒノギャラリーでは2025年3月8日(土)より、ティム・ヘミングトンによる新作展「噴:Erupt」を開催いたします。
ヘミングトンはイギリス北西に位置するチェシャー出身の作家です。2006年日本へ移住して以来、横須賀を拠点に活動を続けています。弊廊での個展は3度目となり、今回は新作の絵画シリーズを展観いたします。
「噴:Erupt」と名付けられた本展は、一連の作品が「火」に関連しているといい、各作品へもそれに紐づくタイトルが付されています。加えて、作品そのものから得る視覚的な情報(下地にバーントシェンナを使うなど)によって、そのエレメントを容易に想起できるのですが、作家はそうした直截的な事象よりむしろ、「火」が持つ観念的なイメージを作品に反映させたいと制作に臨みました。
20年を迎えようとする日本での暮らしの中で、その風土や文化、美意識に触れ、それらを敬愛してきたヘミングトンは、同時に、この地の自然がもたらす脅威にもたびたび接してきました。ウェールズ北西岸に位置するアングルシー島にアトリエを構えていたこともあり、大海原の畏怖というものを認識していた作家でしたが、この国で目にした津波の凄まじさに、それは完全に覆されたといいます。地震大国日本では、いつどこで起こるとも知れないそれらの脅威に常にさらされていることを、身を持って知ることになるのです。ただ、それはなにも日本だけの問題ではなく、また、単に自然の猛威がその対象とは限らず、国際的な情勢に目を向けると、民主主義や自由の尊厳を揺るがす右翼やファシスト政治の台頭など、あらゆる脅威が今や世界中を覆っているとヘミングトンは憂慮します。「芸術はなにも真空で起きているのではない。アーティストにとって、世界の動向に翻弄されずにいることのほうが難しい」と語る作家は、熱を帯び、ふつふつと湧き起こりながら、やがて莫大な勢力へと化す不可視のエネルギーを、現実世界に重ね合わせ、今回のシリーズへ投影したのかもしれません。
ヘミングトンは、過去2回の個展で、「混沌と秩序」や、「陰と陽」といった物事の二極構造、またその狭間(はざま)に着目した絵画作品を発表してきました。万物はその中でこそ成立すると考えた時、作家の仕事は、ものの「在り方」を問う行為ともいえ、今回の新作でも、得体の知れぬ脅威と、それに抗い、鎮めようとする狭間に、私たちは存在することを示唆しているようにうかがえます。ヘミングトンはアーティストとして常に "to make the impermanent permanent" という課題を掲げ制作に取り組んでいるのですが、これもまた、相反する二項に対し、作家としていかに働きかけることができるかを示す言葉といえるでしょう。
ものの「在り方」を問うという点において、ヘミングトンの空間への試みも触れないわけにはいきません。物理的に、これまでの特に大きな作品、また今回発表する新作は、すべて人体に基づいているといいます。支持体から作り込む作家は、二次元にとどまらず、鑑賞者へ三次元の劇場空間にいるような、何かしらの身体的関わりをもたらす「場」の創出を作品に求めます。その空間(ドラマ)性は、彼が長年のインスピレーション源と認めるカラヴァッジョやフランシス・ベーコンの作品からも顕著ですが、今回の新作においては、日本の襖(ふすま)をリファレンスとしてあげています。建具である襖が人体と密接に関わっていることは自明ですが、襖絵として、その垂直構図、また分割画面の中に描かれるシーンは、独特の空間性をはらんでいます。一般的な襖は、高さ170~180cm、幅90cm前後に対し、ヘミングトンの支持体は181×91cmのパネルに、その半分もしくは1/3の幅のパネルを繋ぎ合わせ、そこへキャンバスを張り、基本の画面とします。作家は、そのパネルの接合部こそ極めて重要とし、それは液状の画材を流し込む際、画面を水平に寝かせるため、その境目が契機となり、微細に変化する絵具の流れが、画面に予期せぬマチエールを呼び込むといいます。また、作家が「ブレイカー」と呼ぶバー状の空白のパネルが、その基本画面の左右いずれかに取り付けられることもあります。これは文字通り、余白をもたらし、空間を呼吸させる装置として加えられるのですが、これも日本特有の空間意識と通じるところがあり、同時に、身体へ働きかけるひとつの仕掛けとなり得ます。ヘミングトンの作品は、絵画を超越し(それは決してイリュージョニズムではなく)、「場」として現れることで初めて成立し、その空間において観者は、ものの「在り方」をあらためて知覚するのです。
前回の弊廊でのヘミングトンの個展は、コロナ禍の只中、一時中断も余儀なくされました。あれから約5年が経としている今、当時の緊迫は収束したものの、新たな問題は大小次から湧き起こり、それでも生きて、生き抜いていかなければならない現実があります。ヘミングトンの作品は、そんな激動の時代を反映しながら、一方で、その対局にある平静を願い、深い安穏へと誘う「場」になり得るかもしれません。是非ご高覧の上、体感いただけましたら幸いです。
- Closing Days
- 日・祝
※8日(土)は6pmまで。20日(木・祝)は休廊となります。 - Opening Hours
- 11am ~ 6pm
- 土曜5pmまで
- Exhibition Website
- http://www.hinogallery.com/2025/3534/
Access Information
ヒノギャラリー ヒノギャラリー
hino gallery
- Address
-
〒104-0042
中央区入船2-4-3マスダビル1F - Website
- http://www.hinogallery.com/
Created Date:2025.3.25