ID:44694
吹田文明展 Fumiaki FUKITA
―米寿記念―
Venue
シロタ画廊
SHIROTA GALLERY
Period
2014 11月17日―29日
Exhibition Outline
吹田文明展 フキタフミアキテン ―米寿記念―
Fumiaki FUKITA
光と闇の壮麗なるシンフォニー
―吹田文明へのオマージュ―
美術評論家 建畠 晢
吹田文明の優に半世紀を越える制作歴は、右顧左眄することのない木版画の世界の精髄の探求者としての悠然たる軌跡を描いてきた。まさにマエストロと呼ぶにふさわしい今日では稀有な版画家なのだが、同時にまた新たな表現の可能性を求めてラディカルな実験を積み重ねてきた果敢な闘士でもあるといわなければなるまい。木版というもっともプリミティブな方法から繰り出されるきわめて豊饒で、しかも斬新な現代性を帯びた画面に、私たちは久しく魅せられ続けてきたのである。
さて、このマエストロの表現の独自性が一躍国内外で脚光を浴びるようになるのは、1950年末の木版と紙版の併用技法による「眼球体」のシリーズにおいてであった。木版には油性絵具を紙版には水性絵具を用いて刷ったもので、前者のクロス・ハッチング的な直線の集合のシャープさと後者の空色を滲ませた円の連なりの有機的なマチエールとの対比が、不思議な生命感のある形象を生み出しているところは、その後の仕事にも通底する吹田ならではの造形的な資質といってよい。
彼のさらなる独創は、周知のように木版プレス機の考案であった。60年代から頻繁に登場するラワン材の版木に金ブラシで微細に傷をつけることによるメゾチント的な味わいをもった画面(「鬼火」など)は、このプレス機の印圧がなければ達成できなかった世界であるに違いない。さらに彼はドリルで穴を穿ち、金槌で凹凸をつけ、あるいは逆に版木を平版として用いるなど、道具にも刷り方にも、実に多彩な方法を動員して行くのである。
そうした彼の制作への国際的な評価を決定的にしたのは、1967年のサンパウロ・ビエンナーレにおける版画部門のグランプリの受賞であった。出品作の一つ「砕ける星」では、夜空に散開する花火のように濃淡の階調を移行させながら放射状に広がる青の軌跡が、紙の上のイメージとは思えないほどの清澄な光を感じさせる。円のモチーフの探求が到達した記号的といってもよい明快な空間だが、しかしそれは決して無機的なものではなく、むしろどこか記憶の中の光景に触れてくるような深い情感を秘めてもいるのだ。
この青い花火の世界は1970年代以降は惑星的なシンフォニーを思わせる華麗にして荘厳なイメージへと展開し、いささかも弛緩することのないバリエーションを数多く創出し続けてきた。それは闇の向こうに満ちる光であり、時として闇の手前にどこからともなく出現する光でもある。無重力の空間に重なり合って浮遊する円形や紡錘形の形態は、精妙なグラデュエーションをもって青から赤へと移行する光(矩形の画面の外側から差してくる謎の光の反映だ)を帯びることで、神秘的なボリューム感をかもしだしている。
最近作において、私たちが瞠目すべきなのは画面の基調をなす青の色彩がますます深みを帯びてきている点であろう。犬や蝶などのシンボリックなイメージが、宇宙的なスケールと地上の光景とを融合させているかのように見えるのも興味深い。この法外なマエストロの衰えを知らぬ創造力に、心からの敬意を捧げたい。
(京都市立芸術大学長)
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- AM11:00 ~ PM7:00
- 最終日 5:00
Events
初日 5時よりオープニングパーティーを致しますので ご多忙の事とは存じますが ぜひのお出かけをお待ち申しております
Access Information
Created Date:2014.11.11