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松本陽子《私的植物図鑑》 Yoko Matsumoto "Private Botanical Dictionary"

会場

ヒノギャラリー

hino gallery

会期

2025年5月17日 ー 2025年6月14日

展覧会概要

松本陽子《私的植物図鑑》 マツモトヨウコ《シテキショクブツズカン》

Yoko Matsumoto "Private Botanical Dictionary"

ヒノギャラリーでは2025年5月17日(土)より、松本陽子「私的植物図鑑」を開催いたします。

松本陽子は1960年に東京藝術大学油画科を卒業後、実に65年ものあいだ絵を描き続けています。本展では、日本では初の発表となるブルーを基調とした油彩画の最新作に加え、1990年代後半から2000年代初頭にかけ描かれた幻のブラックシリーズより、こちらも油彩画2点を一挙展観いたします。

松本の仕事は、その時代ごとに追求してきた色彩によっても辿ることができます。1970年代後半から2000年初期まで30年あまり取り組んだピンクのアクリル画を皮切りに、2005年からはグリーンの油彩画、そして2023年、それは無為にブルーへと移行していきます。その時々でグレーやホワイト、また今回久しぶりのお披露目となるブラックといった絵画にも挑んでいるのですが、その一連の営為を振り返ると、松本が生み出す作品はまさに多彩といえるでしょう。

初めてブルーの油彩画を描き上げた際、作家は次のようなコメントを残しています。

(2023年)5月のヒノギャラリーでの個展のときもそうだったけれど、近作の画面にブルーの筆触がよく認められるようになった。それはウルトラマリンディープのような深いブルーではない。明るく華やかなコバルトブルーペール、いってみれば地中海ブルーだった。

ピンクのアクリル画にせよグリーンの油彩画にせよ、私の作品において、ブルーはけして見過ごしてはならない存在である。絵画空間を軽やかにも厳かにも変容させる底知れぬ力がこの色彩に備わっていることを、私は長い画歴のなかで体得していた。

近作では、ピンク、グリーン、ホワイトの画面にコバルトブルーが一層目立って現れた。あらゆる境界を超えて顕出した色。この色彩が持つ魔術のような力に操られ、私はごく自然とブルーを主色にした制作をはじめた。

透明で美しいコバルトブルーは実現できたのか。自問の応えが、私の眼前に拡がっている。

こうして誕生した揺籃ブルーの油彩画は、昨年ロンドンのギャラリー White Cube Mason's Yard にて開催された松本の英国初となる個展で発表されました。この展覧会は予想を遥かに上回る反響を集め、その勢いは息つく間もなくニューヨークでの展示を実現させ、画家松本陽子の作品は一気に世界へと放たれたのです。

そのような怒涛の一年を経て、松本はブルーの絵画をここ日本でも発表すると心に決め、今回大作を含む5点を完成させました。各作品は、作家の言葉を借りれば「画面を軽やかにも厳かにも変容させる底知れぬ力」によって、それぞれ独自の表情をたたえています。まぎれもなく松本陽子の絵画でありながら、同時に、またひとつ新たな境地へと分け入った作家の決意を、それら作品から受け止めることができます。

画面を走るオイルパステルの自由な軌跡は、松本が制作のなかで享受した悦びであり、それを辿っていくとたちまち、木炭と油彩が織りなす重層へ引き込まれ、ブルーという色彩の作用も相まって、視線はさらに深奥へと誘われます。作家が体験したであろう感覚、この先にもまだなにものかがあるかもしれないと思わせる無限の空間、果てしない絵画の領域が、そこには広がっています。目に見えないもの、手に掴みとれないものを一貫して描き続けるこの画家の衝動は、ほかでもなく松本自身の作品が機縁となり、作家をまた何度でも真っ白なキャンバスへと向かわせるのです。

今回これら新作に加え、ブラックシリーズより2000年初期に描かれた作品も2点展示いたします。ブラックというものの、松本は黒の絵具は用いず、削った木炭とバーントアンバー、ウルトラマリンディープといった色を掛け合わせ、独自のブラック(ダークカラー)を作り出し描いていました。その空間は滞ることなく豊かに漂い、松本の他作品と同様、観る者の眼差しへと能動的に働きかけます。そして、ブルーの新作とブラックの旧作、異なる時代の油彩画を同時にご覧いただくことで、この作家がいかに色彩を自分のものとし、矩形の限られた空間のなかで、広大無辺な世界を求めてきたかが、あらためておわかりいただけることでしょう。

ヒノギャラリーでは2年ぶりの個展となります。会期中89歳を迎える作家ですが、とどまるところを知らないその姿勢は作品が物語っています。まさに魔術によって発顕したかのような松本陽子の絵画を、どうぞご堪能くださいませ。

展覧会ホームページ
http://www.hinogallery.com/2025/3592/

会場情報

ヒノギャラリー ヒノギャラリー

hino gallery

会場住所
〒104-0042
中央区入船2-4-3マスダビル1F
ホームページ
http://www.hinogallery.com/
更新日:2025年5月20日
登録日:2025年5月20日