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小松 純 展 KOMATSU JUN Exhibition NONF.C., 2024
会場
ギャラリー白 kuro
会期
2024年12月9日(月)~12月21日(土)
展覧会概要
小松 純 展 コマルジュンテン
KOMATSU JUN Exhibition NONF.C., 2024
土と身体性、フィクションでない存在を求めて
マルテル坂本牧子
小松純は、私が初めて知った「土を扱う作家」の一人である。兵庫陶芸美術館開館記念特別展(註1)に出品が決まっていた小松の作品を実見しに、2005年の夏、ギャラリー白で行われていた彼の個展を訪れたのが、小松の作品との出会いだった。この時、床面に横たわる《NONF.C.,2005 ライ》を見て、長さ3mを超える巨大な造形と、生気溢れる土の表情に圧倒されつつ、その表面に生々しく残る作者の手の痕跡が強く印象に残った。また、鉄と陶を組み合わせ、壁面を使った立体作品にはコンポジションの妙があり、陶芸のイメージよりも絵画の感覚に近い感じがして、観念性や物語性を彷彿とさせた。これらの作品を眺めているうちに、「現代陶芸」とは何だろう?少なくとも、自分が思っている以上に、もっと広がりのある世界なのかもしれない、と嬉しくなった。
小松は、前述の開館記念特別展で唯一、生土(泥土)を用いて現地制作を実施した。やきものとは通常、土に含まれる水分を出来るだけ乾燥させ、さらに焼き締めるとで、完全に水分を飛ばしてしまうものである。しかし、小松は、「土を介して『水のコンセキ』として「『乾くコト』が見えるカタチ」を探ろうとしていた。つまり、「生土」「乾く」という陶芸のプロセスの一部にフォーカスしながらも、それは全ての生命の源である「水」を象徴的に見せようとする作品であったのだ。泥土を手にたっぷりとつけて、壁面いっぱいに押し広げていく行為は、まさに全身を使ったパフォーマンスであり、そこに映し出される身体性とは、今、そこに、確かに在る、生きているということの証でもある。
意外にも、小松の作品は、じつは一番「とっつきやすい」ものだったのかもしれない、と今になって思うことがある。土を扱い、器も作る。長きにわたり、陶業に関わる会社に勤め、パブリック・アートも作る。それでも、小松の存在は、その後に展開していった「現代陶芸」の流れの中にすんなりと収まるような感じがしないし、そもそも小松の作品を工芸の文脈から捉えようとすることも難しい。いわゆる素材論や技法論に依拠しない、土(陶)を使って何をどう表現するのか、何を伝えようとするのかを徹底的に重視するということ。ごく当たり前のことのようだが、そんなことを強く打ち出す「土の仕事」は、未だにそれほど多くないのではないか。純粋たる現代の造形として呈示される土の作品。そこにフィクションではない生の人生を叩き込むのが、小松の真骨頂といえるものではなかったか。「とっつきやすい」と思ったのは、小松の作品がとても情感的であり、人間とそれらを取り巻く環境、大地の恵みと自然の驚異、現代社会に潜む狂気や暴力、終わりのない禅問答、しかし、それでも私は生きているのだ、と強く訴えてくるような気がしたからだ。リアルな具象でもなければ、抽象表現主義のようなアプローチとも異なる。土を手で丸めて積み上げる。泥土を手で拡げてドローイングを描く。そんな原初的ともいえる行為も、小松にとっては、あくまでも表現に向かうものであり、手仕事であっても、手抜ではない。それは、量塊(マッス)としての土ではなく、刻々と移り変わる現象を作者の身体性を通して土で捉えようとする、アクロバティックな土の仕事だったのだ。
しかしながら、ここ十数年の大きな変化といえば、2012年の個展に登場した《ZASU》と《UZUKU-MARU》を皮切りに、その後も様々なかたちの具象的な人形(ひとがた)が次々と現れたことである。さらに泥土ではなく、絵具やクレパス等を用いたカラフルなドローイングが展示に加わるようになり、立体+ドローイングによって、混沌とした空間を作るようになっていった。混沌は、そのまま作者の精神状態のようでもあり、現代社会が陥っている混乱と絶望を象徴するもののようでもあるが、一方で、人形には土台や台座がつき、いっそうモニュメンタルな彫像という体を成していく。この混沌とした世界の中、拠って立つところとして、いよいよ人間の身体そのものへと小松の意識が向かっているのだろうか。
「(人形を作るには)技術が必要、つくるチャレンジ」と小松はいう。今回の個展には、思い切り身体を動かし、ダンスをする人形も登場する。きっかけは今夏のパリ五輪で見た「ブレーキン」。人間の身体一つで繰り広げられる超人的なパフォーマンスの数々に「人間の身体はここまでできるのか?」と強く心を打たれたという。暗闇を抜け、土に解放する作者自身、そして、そのブレークスルーの瞬間を見届ける観覧者たち。その時間を共有することで、まるで祝祭のような空間がそこには広がっていくことだろう。あらゆるジャンルの境界線も曖昧で、それぞれのアイデンティティも多様性という名の大海原に飲み込まれそうな今、小松の作品が未来の陶芸表現の在りようを示す、一筋の光となるよう願っている。
(Makiko Sakamoto-Martel 兵庫陶芸美術館学芸員)
註1 兵庫陶芸美術館開館記念特別展第Ⅲ弾「陶芸の現在、そして未来へ Ceramic NOW+」(2006年6月10日~8月27日兵庫陶芸美術館)。小松は立体作品5点に加え、十二扇一双からなる屏風に泥土でドローイングを施した作品、さらに会期中、参加者らとともに壁面に泥土で手形をつけて仕上げた壁面作品を発表した。
- 休催日
- 日曜休廊
- 開催時間
- 11:00am ~ 7:00pm
- (土曜4:00pm迄)
会場情報
ギャラリー白 kuro ギャラリーハク クロ
- 会場住所
-
〒530-0047
大阪市北区西天満4-3-3 大阪市北区西天満4-3-3 星光ビル1F - ホームページ
- http://galleryhaku.com/
登録日:2024年12月10日