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開館30周年記念

魂との対話 あるいは はじまりのイメージ「秋山令一」展 AKIYAMA Ryoichi

会場

南アルプス市立美術館

会期

2022.4/9(sat)~5/22(sun)

展覧会概要

開館30周年記念 魂との対話 あるいは はじまりのイメージ「秋山令一」展 タマシイトノタイワ アルイハ ハジマリノイメージ「アキヤマリョウイチ」テン

AKIYAMA Ryoichi

イメージを辿る美の巡礼旅
生きた蚕を美術館のギャラリーに搬入しようとして展示を拒否された作家がいた。当時はある意味で非常識とも思われたが、純粋無垢とも取れるこの出来事は、そのまま秋山令一という作家の強い印象となって、以来私の中で伝説の一つとなっている。
あれからすでに40年近い時が流れた。本展では、改めて彼が残してきた創作活動の足跡を時代ごとに追いながら、代表作を含む約30点を回顧展形式によって紹介するものである。
1952年に山梨県の旧若草町に生まれた彼は、高等学校を卒業して間もない多感な時間に、思わぬ病を経験し、病床生活の屈折した青春の日々を送っていた。しかし、その出来事が因となり、その後の彼を本という新たな世界へと誘いながら、やがて美術家としての人生を歩む一つのきっかけにもなっていった。
彼が描いた最初の作品は、ベニヤ板に油彩で表現した実験音楽家として著名なジョン・ケージの肖像で始まった。他にも絵画表現では、版画に興味を持っと、朽ちた屋根のトタン板を切っては銅版画の代わりに腐食し、木版画制作では時間の経過とその表情を古い板塀を使って再現しようと試みた。
中でも、中心的な表現技法として習熱されていくことになるシルクスクリーンは、この技法の開拓者でもある岡部徳三氏から直接学んでいる。1960年代にはアメリカのポップアートの世界で活躍したアンディ・ウォーホルやロイ・リキテンスタインが多用したことでも知られるが、1986年に第2回山梨県新人選抜展で受賞した《比喩から隠喩へ》《セリーヌの場合》の2点の作品は、いずれもシルクスクリーンが併用されており、この頃にはすでに自分の表現として確立している。
彼の作品の画面中央部には、この技法によって映し出された様々な人物が描かれる。そして、周辺には例えば蚕の時代の糸車や機織り機などの懐かしい農具の類などが配されると、彼の手によって別の意味を纏った、独自のブラック・ボックスが完成されていくのである。
中でもチェコ出身作家のフランツ・カフカやロシアのバレエダンサー、ヴァーツラフ・ニジンスキーをはじめとしてドイツの哲学者で単想家のヴァルター・ベンヤミンや旧ソ連の詩人ウラジーミル・マヤコフスキー、さらにフランスの詩人のアントナン・アルトーなど、ここでは紹介しきれないほど実に多くの人物たちが登場する。一般的には難解と思われがちなこれらの詩人や小説家たちの世界をあえて読み解くことで、彼の独持な黒い空間表現と解釈によって、新たな作品へと変化していく。そして、本のなかで出会った人物たちに共通して漂うある種狂気的な要素や不条理感は、そのまま彼の過去や経験ともリンクし、精神的にも大きく共鳴しながら、フランスのフェルディナン・セリーヌやシモーヌ・ヴェイユといった作家や哲学者へと、さらに深くのめり込んでゆくのである。
そして、本の中で強く印象に残った文章の断片や心の中にイメージした風景は、『旅』という具体的な行為によって、より具現化されていく。ある日のニューヨークでは詩人のアレン・ギンズバーグの痕跡を追って「グリニッジヴィレッジの陽のあたる坂道を…」という詩の一節を胸に秘めて西海岸からニューヨークまで大陸横断バスに乗った。
彼の旅は、ある時はシベリヤ鉄道に乗ってモスクワにマヤコフスキーの足跡を追い求め、プラハではカフカが生きた痕跡を、2月の極寒のカレル橋の石畳にフロッタージュした。そして、旅先で出会った行きずりの名もなき人々や忘れ得ぬ人たちも、度々作品の中に登場するのである。
ホロコーストに取材したポーランドの旅では、アウシュビッツ収容所のバラ線の下の通路に敷かれた石に想いを寄せながら、ゴッホの終焉の地オーベールではゴッホの年の数の石を拾った。それらは皆魂の石となって、彼の作品の一部になっていくのである。
このように、彼の美術家としての人生は、かなり特異な人生観に支えられていると言って問題ないだろう。中央の美術界をほとんど経由する事なく、黙々と本を読み作品を紡いできた彼は、次のように人生を振り返る。「人間が生きているのはほんの一瞬。しかし、生きている証はどんな時代であろうと誰であろうとも、皆れぞれ心の中に宿している。表現する者にとって、音楽であれ、詩であれ、美術であれ、創作するということは感じる心を育て、一生懸命生ききるということかもしれない。」と語った。次なる旅はどこに向うのか。彼のイメージを辿る美の巡礼旅は続く。
南アルプス市立美術館 館長 向山富士雄

休催日
4月11日(月)、18日(月)、25日(月)
5月2日(月)、6日(金)、9日(月)、16日(月)
開催時間
午前9時30分 ~ 午後5時
(入館は午後4時30分まで)
観覧料
一般320円・大高生260円・中小生160円
展覧会ホームページ
https://www.minamialps-museum.jp/?p=548

イベント情報

美術対談「イメージの源泉をたどる」
講師/秋山令一 向山富士雄(当館館長)
日時/5月7日(土)午後2時~
定員/20名(要申込 定員になり次第終了)
参加料/入館料に含む
場所/美術館研修室
申込受付/4月9日(土)~
(受付時間9:30~16:30 月曜日は休館)

美術体験講座「宝物はなんだろう」
自分の大切なものを箱に入れてながめてみませんか
講師/秋山令一
日時/4月23日(土)10時~16時
定員/15名(中学生以上)(要申込 定員になり次第終了)
参加料/2,000円
場所/美術館研修室
申込受付/4月9日(土)~(受付時間9:30~16:30 月曜日は休館)

会場情報

南アルプス市立美術館 ミナミアルプスシリツビジュツカン

会場住所
〒400-0306
南アルプス市小笠原1281
ホームページ
https://www.minamialps-museum.jp/
更新日:2022年4月6日
登録日:2022年4月6日