ID:63588
加賀谷 武 展
新 空 間
シロタ画廊に現る
会場
シロタ画廊
SHIROTA GALLERY
会期
2020年1月14日(火)-25日(土)
展覧会概要
加賀谷 武 展 カガヤ タケシ テン 新 空 間
無形の空間を綯(な)う
美術評論家 早 見 堯
加賀谷武さんが転居した故郷、小矢部を訪れたのは、1990年、隣の砺波市、アートスペース砺波での加賀谷さん個展のときだった。
小矢部の町を案内してもらっているときに、加賀谷さんは散居村を教えてくれた。散居というのは、農家がそれぞれ自分の田畑の中に木々に囲まれた屋敷をつくって暮らしている状態のことで、一国一城の主という気分なんですかね、といって、加賀谷さんは少し笑った。たしかに、畦道や農道、用水路などで線引きされた田畑の中心あたりに木々に囲まれた屋敷が点在している。抽象化すると、線と面、点で構成されているのだが、抽象とは違って、畦道や農道、用水路、田畑、屋敷など、自然と人とが交流する息づかいが感じられたのを憶えている。
ところで、ここ数年、加賀谷さんは、石から日用品にいたるまで、さまざまな事物に金色を施して空間に点在させる「Gold Space」を行っている。柔らかい光が事物から周囲に広がる。空間のなかで憩う事物の息づかいが聞こえくる。そんなことを考えていたときに、散居のことを想いだしたのだった。散居での点である屋敷に相当する金色の事物が、ここでは、周囲の無形で無方向な空間と交流しているのだ。「Gold Space」は、2006年の線的な木枠と面的な和紙で柔らかい光を発散させる「行灯」状の箱を配置したインスタレーションを、「行灯」を金色の事物に代えて展開したものだ。一方、2006年以後の張り渡されたロープによるインスタレーションは線によって周囲の空間を巻きこむ。
加賀谷さんの制作の歩みは、1954年の鉄の面を組みあわせた空間のなかの彫刻から、ビニールや布、パネルによる面的な作品で壁に移り、それが展開されて木枠による線的な作品になり、1978年の画期的な塗り残された際間が画面全体を震わせる「間」で線を発見し直す。以後、壁から離れて、現実空間に戻って線や点によるインスタレーションに移行している。点や線、面というと抽象画の先駆者カンディンスキーの形の原理「点と線から面へ」に逆行していて、しかも、無機的な抽象だと思われるかもしれない。けれども、加賀谷さんの作品では、逆に、鉄やビニール、布、キャンバス、木、ロープ、日常の事物などの体温と質感をもった物質性が重要だ。それは形に応答して色彩の役割を担い、人の情動を刺激する。その物質が、面や線、点を構成要素として空間と交流する。「行灯」や「Gold Space」、ロープインスタレーションは無形で無方向な空間性と息づく物質性とが融合しあい活性化しあう。今回のロープインスタレーションは画廊から街路に到る無形で無方向な空間を綯(な)いあげて、わたしたちに見えない空間を体験させてくれるにちがいない。
(はやみ たかし)
- 休催日
- 日祝休廊
- 開催時間
- AM11:00 ~ PM7:00
- (最終日のみPM5:00まで)
- 展覧会ホームページ
- http://gaden.jp/shirota/2020/0114/0114.html
会場情報
登録日:2020年1月22日