人間国宝、文化勲章受章者、陶芸家としての富本憲吉を知る人は多いけれども、富本憲吉が建築への目をもっていたことを知る人はすくない。富本は、建築が建築家の仕事になりつつある明治時代の終わりに、東京美術学校で建築への目を開き、日常のなかに新しい生活のありかたを提示した芸術家だった。美術学校図案科で建築を学び、ステンドグラスを修得しようとロンドンに留学、帰国後には奈良の旧家の自室を改造して、そこで建築という総合芸術に帰属するさまざまなデザインの試みを、東京に発信したのだった。壁面を飾る版画というグラフィック・デザイン。タピスリーや椅子、照明器具などのインテリア・デザイン。さらに《美的趣味》という室内の教養を演出する書籍や飲食器。富本の陶芸作品はその延長線上にできている。本展は、富本の絶えず考え続けた新しい居住空間を再現しながら、陶芸作品との関連を示し、現代における富本憲吉の意味を問う、21世紀の富本憲吉展である。