美術品は時間や空間を越えて、私たちに何かを訴え感動を与えてやみません。それは作家の精神性や美的観念などが、描線や色彩、構図の中にこめられ作品として独立した世界観を築いているからです。ところが、美術品はそうした内なる世界のあらわれであると同時に、作家の生きた時代の社会情勢や文化などを色濃く反映して、いわゆる外の世界と深いつながりがあることも見逃すことができません。例えば、時の人や流行の風俗をモチーフとしている場合があります。また産業振興の一途をたどる社会へのメッセージを画面にこめている場合や一世を風靡した文芸から新たな世界をひらいたものなどもあるでしょう。作家がひとつの作品を生み出す過程には、実に多彩な背景があるのです。
芸術は時代をうつす鏡のようなもの、とはよくいわれる言葉ですが、作品にまつわるエピソードや背景を社会の動きに重ね、一年につき一作品ずつピックアップしてご紹介いたします。