光の満ちる軽やかで洗練された空間。不意をつくかのように周到にめぐらされた機知に富んだ視覚効果。「場」の特性を活かし、環境条件から導き出された空間構成。統制されたプロポーションが生み出す全体のフォルムと、それに呼応する繊細で精緻を極めた素材と質感へのこだわり。谷口吉生の生み出す建築には、建築が個性的であればあるほど不可避ともいえる構造的呪縛や重苦しい圧迫感から解き放たれたかのような、自由な伸びゆく空間を感じることができます。ミニマリズムの建築追究の手法と、機能・構造における合理性が表裏をなし、絶妙な均衡をかなでる先に谷口建築の美は現れます。
1997年に、ニューヨーク近代美術館[MoMA]は増改築にあたって国際招待設計コンペティションを実施しました。谷口は10名の建築家の中から指名を獲得し、世界中の話題となります。本展は、昨年の11月に開館したMoMAこけら落としの展覧会に、日本における3つのプロジェクトを加え、さらに新生MoMAを詳しく紹介するものです。自らの建築固有の形態特性を消し去り、無私の空間を獲得した谷口のミュージアムにおいては、作品および展示物はその魅力、存在感を一層際立たせます。
豊田市美術館は今年で開館10周年を迎えます。谷口の手による静謐な空間の中で本展を鑑賞することで、谷口建築の真髄をより深くご理解いただけることでしょう。