うしおという名前から”ギュ-チャン”の愛称で親しまれている篠原有司男(しのはらうしお、1932‐東京生まれ)は、既存の芸術の枠を越えた表現をもとめて1960年に結成された『ネオ・ダダ・オルガナイザーズ』の牽引力となった作家としてよく知られています。若い気概と熱気をそのまま伝えるような、屋外での制作や、キャンバスに収まりきらない作品の数々は、当時、「これが芸術か?」という大問題を提起しました。
絵具を含ませたボクシング・グローブをはめて壁を叩く代表作≪ボクシング・ペインティング≫は近年、福山雅治と共演したポカリスエットのCMでも披露されています。また、ラウシェンバーグなど、当時の画壇を席巻していたアメリカの現代アーティストの作品を臆面もなく引用しながら、ユーモアを含んだデフォルメを思い切り加えた作品に、美術界は新しい時代のいきいきとした息吹を感じ取りました。今回の出品作≪女の祭≫(1966年作、兵庫県立近代美術館所蔵)は、そのよう名時代に、日本の浮世絵表現と現代芸術とを掛け合わせた鮮やかな画面が大きな話題となりました。
1969年にニューヨークに渡った篠原は≪ボクシング・ペインティング≫で見せた、その熱気を身体ごとぶつけるかのような表現を更に幅広く、爆発するような勢いで展開します。スピード感あふれるブラッシュワークで20mにも及ぶ大作をものした≪怪獣イン・パリ≫や、ダンボールや廃材に鮮やかな絵具をぶちまけて組み上げた≪オートバイ彫刻≫のシリーズなど、これまでの美術界にはなかった表現を次々に生み出しました。篠原の身体の動きを伝えるスピーディーでリズミカルな色と筆遣い、どこにあっても目立たずにはいない大胆な表現力を縦横無尽に駆使した作品は、壁にかけられたおとなしく行儀のいい芸術に殴りこみをかけるパワーがあふれています。