ジェームス・アンソール(1860-1949)は、ベルギーの近代美術を代表する画家として国際的に高く評価され、広く「仮面の画家」として知られています。
アンソールは、カーニヴァルの仮面、骸骨、グロテスクな人間などを劇場を思わせる画面に登場させ、その悪夢のような世界で現実の醜悪な姿を暴き、人間存在を痛烈に風刺しました。そこには、辛辣で呵責ない、諧謔を交えたアンソールの批評精神がいかんなく発揮されています。
一方、アンソールの画家としての出発点には、写実主義の模索がありました。故郷の海辺の風景、静物、人物などを描いた青年時代の作品には、対象を光の中に捉える優れた感性が伺えます。
また、アンソールが独自の芸術を形成する過程で、東洋の影響が指摘されており、葛飾北斎による絵手本『北斎漫画』を模写した一連の素描が、まとめて展示されるのは、今回の展覧会の大きな特徴となっています。
本展は、アントウェルペン王立美術館、オーステンド市立美術館などが所蔵するアンソールの油彩、素描、版画、約140点により構成されています。わが国で開かれる本格的なアンソールの回顧展として、20年ぶりの開催で、初期から晩年までの画家の全貌が紹介されます。