おかげさまで馬頭町広重美術館は本年度秋に開館5周年を迎えます。この良き年を記念して、この春は、六大浮世絵師の1人、写楽とその時代の役者絵を紹介する特別展を開催いたします。
人気の歌舞伎役者を描く「役者絵」は、浮世絵誕生以来、主要画題の一つでした。その草創期は、着物に家紋を描き込むなどして役者の描き分けがされていましたが、18世紀後半になると、役者の顔の特徴を的確に写したいわゆる「似顔」が流行します。そして、満を持して、役者絵界に東洲斎写楽が登場します。
生没年も出自も不明な、謎に包まれた浮世絵師として知られる東洲斎写楽は、寛政6年(1794)、突如として版元蔦屋重三郎から28点の役者大首絵を発表します。その作品は、雲母潰しの背景に役者の半身像を美化することなく写実的に捉えた、それまでにない新しい作風のものでした。役者絵界に波紋を広げながら、写楽は精力的に作品を発表し続け、そして衝撃的なデビューからわずか10ヶ月後、また忽然と姿を消してしまいます。
写楽が消えた理由については様々な憶測がなされていますが、その短い画業で送り出された約140作品が浮世絵界に及ぼした影響は、決して小さなものではありませんでした。
このたびの展覧会では、貴重な写楽作品のなかから20点を一堂に展示いたします。また、同時代の絵師による作品もあわせてご紹介し、18世紀末から19世紀はじめにかけての役者絵の様相をご鑑賞いただきます。写楽作品の魅力と、それぞれの画風を築き上げた絵師達の創意と工夫をご堪能いただけましたら幸いです。