1886年にシュトラースブルク(ストラスブール)で生まれたハンス(ジャン)・アルプ(1886-1966)は、20世紀前半の近代美術におけるもっとも革新的な芸術家のひとりです。アルプは1916年にダダイズムの創始にかかわり、国際的なアヴァンギャルド運動と共に歩みました。
アルプはさまざまな身近なものから―「へそ」や「口髭」といった人体の一部、「帽子」といった日用品、「葉」といった自然物から―彼独自の有機的なかたち、いわゆる「オブジェ言語」を抽出し、それを造形作品に応用しました。それらの配置や構成は、さらに偶然性も交えて探求されました。その後、アルプの有機的な丸みを帯びた彫刻には、稜線や切断面が現れますが、それは戦後の金属の厚い板をくり抜いた作品へと展開します。
今回の展覧会は、アルプ美術館(バーンホフ・ローランズエック)との共同企画として、日本におけるハンス・アルプの本格的な個展としては、およそ20年ぶりに開催されるものです。約80点の彫刻とレリーフを含む150点余りの作品を、以下の8つのテーマを立てて展示し、アルプの創作の全体像を明らかにします。
Ⅰ.人物像の描写について
Ⅱ.幾何学的観点と左右対称の見方
Ⅲ.おとぎ話の世界
Ⅳ.芸術形式としての書く行為
Ⅴ.アルプのオブジェ言語
Ⅵ.メタモルフォーゼという考えの重要性について
Ⅶ.配置と構成:並べ方の原理
Ⅷ.造形原理としての偶然