2005年に生誕百年を迎える映画監督・成瀬巳喜男は、1905年(明治38年)8月20日(5月18日の説もある)、東京に生まれました。大正9年、松竹蒲田撮影所に小道具係として入社。のち助監督部に移り、昭和5年「チャンバラ夫婦」で監督デビューを果たします。すでに活躍していた小津安二郎と作風が似ていたこともあって、昭和9年P.C.L(現東宝)に移り、トーキ作品「妻よ薔薇のやうに」や「鶴八鶴次郎」で注目されました。戦中の映画統制や戦後の東宝争議などで思うように作品を撮ることができない時期もありましたが、1951年(昭和26年)に林芙美子原作の「めし」で演出のペースを取り戻します。以後、「おかあさん」「稲妻」「夫婦」「妻」「あにいもうと」「山の音」「晩菊」と名作を次々と発表し、その頂点ともいうべき「浮雲」は小津監督をも唸らせました。一貫して女性に主題を求め、平凡な市井の人物たちを日常的なリアリズムで描き、「乱れ雲」を最後に生涯89本の映画を残しました。1969年(昭和44年)7月2日没。
本展では、当館で所蔵する美術監督・中古智のセット図面やロケハン写真、助監督時代の須川栄三監督旧蔵台本、スチールカメラマン・秦大三の写真ほか、初公開となる成瀬監督やその他成瀬組スタッフの旧蔵資料を一堂に集め、映画の製作に関わる様々な資料から、成瀬映画の魅力を探ります。