小林清親(1847~1915)は、「最後の浮世絵師」と呼ばれています。彼は幕末の江戸に旗本の子として生まれ、維新の動乱期を経て、明治時代を生き抜きました。
文明開化が推進された明治初期には、大きく変貌を遂げる東京の風景を明るく乾いた空気感を持って描いた浮世絵が多く出版されましたが、清親はこれらを太陽光線の微妙なうつりゆきや、提灯のかすかなゆらめき、あたたかなガス燈の光などに注目して描き出しました。この「光線画」と呼ばれる作品群には、幕末期の浮世絵師広重の作品に見られるような郷愁ともいえる情趣が漂っています。清親は、自らの作品に消えゆく江戸の詩情をとどめたのでした。
本展覧会では、そうした清親ならではの「光線画」の他に、浮世絵の主要画題である古典的な美人画、江戸時代から庶民に親しまれてきた物語絵、軽妙な筆さばきで描かれた肉筆画など、浮世絵界が衰亡していくなかで最後のきらめきを放った浮世絵師小林清親の多彩な画業を、当館所蔵作品を通してご紹介します。