横向きの大きな頭とたくましい手足からなる原始人でも、未来人でもある〈頭足人〉。アンテス作品の代表的なこのモチーフは、神話的な世界を醸し出しながらも、空虚な光景に置かれることで、現代人の精神世界をも象徴しています。また彼はプリミティヴ・アートのコレクターとしても知られており、北米プエブロ・インディアンに伝わるカチーナ人形の約800点にもおよぶコレクションは世界最大を誇っています。万物に宿る聖霊を表現したカチーナ人形。その芸術性の高さ、そしてそこに込められた時間を超越した宇宙観は、1920年代にシュールレアリスムの画家たちを魅了し、今なお世界各地で関心が寄せられています。
まず第一部では、アンテス財団の素晴らしいコレクションのなかから、約80体のカチーナ人形を厳選して紹介、なかにはデュシャンやエルンスト旧蔵の人形も含まれています。第二部では国内で所蔵されている秀逸な作品の数々に、ドイツのシュプレンゲル美術館のコレクションを加え、油彩、版画、立体など約60点でアンテス芸術を回顧します。透徹のまなざしで人間社会のまなざしで人間社会の深淵を見据えるアンテスの作品と愛らしいカチーナ人形との絶妙なコンビネーションは、「諷刺とユーモア」をメイン・テーマに掲げる当館にとっても、まさに相応しいものです。ともに日本では初めての本格的な展覧であり、芸術家とその制作の着想源、両者のスピリットに触れる貴重な機会となるでしょう。「アンテスとカチーナ人形―現代ドイツの巨匠とホピ族の精霊たち」展の会期中には、講演会やワークショップなど関連事業も多数企画されています。