『ユビュ爺の再生』は、フランスを代表する画家ジョルジュ・ルオー(1871-1958)が手掛けた最初の版画集です。「ユビュ」とは、19世紀末のパリを生きた天才詩人アルフレッド・ジャリ(1873-1907)の創作した大悪党の物語です。ルオーと専属契約を結んでいた画商アンブロワーズ・ヴォラールは、この物語の主人公ユビュを用いて『ユビュ爺の再生』を執筆し、その挿絵をルオーに依頼しました。
ヴォラールの文章は、文学的に特に優れたものではなかったものの、ルオーは、独自のユビュの世界を創りあげました。傲慢なブルジョアや官僚主義、打算的な植民地主義、そして抑圧された人間の悲哀と生命力といった人間世界に渦巻く悪の化身などが描かれています。その暴れまわるようなすばやいデッサンは、人間の本質だけを捉えようとする画家の執念を物語っているようです。
同時公開の版画集『ミセレーレ』は、キリスト受難と戦争の悲劇をテーマに、人間の苦しみと希望を永遠の宗教感情にまで高めたルオー版画の最高傑作です。
どちらの版画集も、ルオー自身が「色彩の王者」と呼んだ色“黒”で表現された初期の傑作であり、一堂に展示することは極めて稀です。