古代ギリシャやローマでは、「火」「空気」「土」とならんで世界を構成するものの一つと考えられていた水は、わたしたちが生きていくうえで欠かせないものです。これまで世界中の芸術家によって、さまざまな主題の中で川や海、雨などの情景として表現されてきました。水が見せる表情は、地勢や時間、天候によって、ゆるやかな流れやしぶきをあげる激しい流れ、淀み、凪、さざ波、荒波、うずまく波と実に変容きわまりありません。それは多くの芸術家の創作意欲を刺激し、風景画や歴史画、豊かな装飾性による意匠の中に、優れた技巧や多彩な表現としてみることができます。
本展では、当館が所蔵する水と結びつきのある作品群の中から、水の表面を意味する「みなも」に焦点を当て、3つのテーマでご紹介します。第1章「生活をめぐる」では、釣りを楽しむ渓流や湯あみ、都市を流れる河川など人々の生活と関わりのある「みなも」をめぐります。第2章「水景をめぐる」では、今はもう存在しないかもしれない、かつて作家が訪れ心惹かれ描いた国内外の風景を、時空を超えてめぐります。第3章「様式・意匠をめぐる」では、様式化された日本的な水の表現や定まった形を持たない水というモティーフにさまざまな輪郭を与え、デザイン化された意匠をめぐります。
会場内のいろいろな「みなも」をめぐりながら、水の表現に投影された心情や美しさ、表現技巧など、幅広い視点で鑑賞をお楽しみいただけると幸いです。