神も、庶民も、バケモノも
橋本龍美(りゅうみ)(本名誠吉)は、加茂市出身の日本画家です。幼いころ忙しかった母に代わり乳母によって育てられた誠吉少年は、毎夜乳母が語ってくれる夜噺に心をふるわせ、また年に一度の青海神社の祭の華やかさ、またそこで掛かる見世物小屋の蛇娘やサーカスに心ときめかせ、そして四季折々の自然を満喫しつつ、多感な少年時代をすごしました。独学により画家を志した龍美は、新制作協会の日本画部に出品、やがてその独特の画風により受賞を重ね、中央画壇に躍り出ます。「新世代の登場」と高い評価を得た背景には、幼い頃に体験した、夜噺に登場する魑魅魍魎(ちみもうりょう)たちや、加茂祭の賑わいと興奮がありました。
創画会の創立会員になってからも、龍美は、夜を跋扈(ばっこ)する妖怪たちをユーモラスに描き、そして次第に懐かしい故郷の自然とそこに暮らす人々の姿も描くようになります。その根っこはすべて幼い時代の原風景であり、さらにそこには森羅万象に神が宿るという日本古来の宗教観が存在するものと思われます。
このたび、平成28年に亡くなった橋本龍美の没後初めてとなる大規模な回顧展により、その画業を振り返ります。〈異色の作家〉と呼ばれた橋本龍美が描く絵画世界は、観れば観るほど新しい発見があります。魅力的なユーモアあふれる独自の世界をお楽しみください。