日本にはやきものの長い伝統がありますが、アメリカでは状況がまったく異なっていました。第2次世界大戦以前のアメリカ陶芸は、ヨーロッパを規範として技術を重んじる傾向が強くありましたが、戦後になると状況が大きく変化します。ピーター・ヴォーコスらがそれまでの器としての陶芸の技法的な常識を破るきわめて自由で彫刻的な陶芸作品の制作を開始したのです。これらは1950年代、ニューヨークの美術界を風靡したポロックらの行動の軌跡を示す作画法になぞらえて抽象表現主義的陶芸と称され、陶土による新たな造形表現として注目されました。それはやきものという概念ではとらえられない、きわめて彫刻的な要素を強く含んだものであり、後にクレイワークと呼ばれるようにもなります。また、浜田庄司の訪米を通じ、日本の民芸が紹介され民芸風の陶器が作られたり、日本の楽焼にヒントを得た作品も制作されました。1954年に訪米した北大路魯山人もアメリカのアーティストたちに影響を与えた一人と言えるでしょう。さらに1970年代になると、マーケットの食品をやきもので作るなどポップ・アート風の作品も現れてきました。このアメリカでの流れは、やきもの王国を自認していた1970年代の日本の若手陶芸家たちに大きな影響を与え、日本の陶芸家たちは驚愕とともに急速にクレイワークに引き込まれていきました。 本展では、表現としての陶芸を意識したアメリカの現代陶芸家たちが、変転する社会状況と呼応しつつ様々な作品を生み出していった、1950年代から1990年代の系譜を、世田谷のコレクター故豊田勝業氏のコレクションを中心に、69人の作家の131点の作品により、本格的に紹介しようとするものです。