油絵具は、亜麻仁油(あまにゆ)などの乾性油(かんせいゆ)が酸素と結びついてゆっくりと固まる性質を利用した絵具で、おもに顔料とそれを定着させる油を練りあわせて作られます。それを使った油絵は明治維新後に殖産興業のための技術として導入されて美術学校で教えられ、展覧会などの発表の場が設けられると、西洋の表現を支えるものの見方や、新しい思潮への共感とともに、かつてなく広く受け入れられるようになりました。
油絵具には独特の艶と透明感があり、筆触や盛り上げを残すこともできる強い物質性を持っていることが特徴です。それらの性質が可能にする真に迫った描写は、紙や絹に膠(にかわ)によって顔料を定着させる手法が中心であった伝統的な日本の絵画表現とは異質でした。しかし、乾性油を使った絵具による絵画を油絵とすれば、だれもが触れられるものではなかったとはいえ、古くは仏教伝来時の密陀絵(みつだえ)に遡る歴史が底流としてあり、その上で、近代以降は西洋から伝えられた素材・技法として「洋画」と呼ばれながら、日本の美術として根付いてきました。
その過程で、画家たちのまなざしは油絵を生み出した海外の表現に向かい、ひるがえって日本美術とは何であるかを問うことにもなりました。日本の近代美術の中に油彩画がなかったなら、今日の美術表現はずいぶん違ったものになっていたはずです。多彩な画材が開発された現代でも、油絵は材料の多様性のなかに埋もれることなく存在感を放っています。その理由を考えることは、近代美術に限っても明治以降、多くの日本人画家たちが油絵と向き合ってきた時間を経た、いまだからこそできることでしょう。当館のコレクションでも重要な位置を占める油絵を通して、日本の近現代美術の魅力を再発見していただく機会ともなれば幸いです。