2020年より世界を襲っている新型コロナウィルス感染症の流行は、わたしたちの日常を一変させました。横尾忠則もまた外出や人と会うことができず、アトリエに籠って絵を描くことに没頭します。 新作のモチーフは、中国は唐の時代の僧だった寒山と拾得の姿。奇妙な風貌と奇行で通るこの二人は、実は文殊菩薩と普賢菩薩の化身だったという言い伝えから、これまでも数々の文学や美術に取り上げられてきました。浮世離れした詩人と掃除夫の姿に横尾は何を見たのでしょうか。そして、新作のもう一つの特徴は横尾自らが「朦朧体」と呼ぶ描画スタイルです。近年患っている難聴と腱鞘炎がもたらした身体的な感覚の変化は、自由にうねる線や輪郭のゆらぎ、軽やかな色使いとなって作品に現れました。画業40年にして横尾が獲得したこの新たなスタイル。でも実は、過去の作品に何度も現れてきたものだったのです・・・ 本展では、横尾の最新作を一堂に展示するとともに、過去の作品をあわせて参照することで、横尾の現在が思いがけなくもこれまでの格闘と模索の成果と巡り合っているのではないかということを考察します。“Forward to the Past”、つまり「過去へ前進」する最新の横尾忠則をぜひご覧ください。