タイトル等
陶芸の提案 2022
― story ー
石井 美緒 石山 哲央 一色 智登世 川瀬 理央 木野 智史 下村 一真 田中 野穂 田中 悠 谷内 薫 中島 綾香 西 崇 松森 洋駆 三島 寛也 森川 彩夏
会場
ギャラリー白 ギャラリー白3 ギャラリー白kuro
会期
2022-04-04~2022-04-16
休催日
日曜休廊
開催時間
11:00a.m.~7:00p.m.
(土曜5:00p.m.迄)
概要
「Story」
奥村泰彦

「Story」という言葉は、それ自体が様々な物語を思い起こさせる。
美術の歴史などをちょっとは学んだ人間にとっては、エルンスト・ゴンブリッチの『The Story of Art』が思い出されるかもしれない。1950年に出版されて以降、版を重ねた大著の邦題は、かつては『美術の歩み』とされていたが、近年の新しい訳では『美術の物語』と、原題に近いというかそのままの題名となっている。西洋を中心に美術の歴史を語った書物であるにも関わらず、題名にhistoryではなくstoryという言葉を用いているところに、著者の意図を探ってしまうのも、英語にhistoryとstoryという2つの単語があるからである。歴史と物語と訳されるこの2つの単語は、元をたどれば同じ単語から派生したものという。フランス語のhistoireをはじめ、他の欧州各言語でも、ギリシア語のίστορίαからラテン語historiaに受け継がれ、そこから各言語に引き継がれた一語が、歴史と物語の両方の意味を担っている。英語でこの2つの単語が分かれたのは、フランスから異なる時期に2度伝わったためだという。伝わった時期の違いによって語形が異なることになり、その担う意味も二分されたということのようだ。古典ギリシア語では元々は尋ねて知るといった意味で、そこから知識、そして歴史という風に意味が変遷したらしい。同じ一語であっても、言い表される内容が複数に渡る場合、どちらの意味を担うかの判別は、その言語を母語とする人にとってはしばしば無意識に行われるだろうが、英語の場合は単語によって分けられることになる。のではあるのだか、元々が同じ単語という出自を持つのであるから、截然と完全に意味を切り分けることは難しく、意味の往還が起こるだろう。ゴンブリッジ自身は、例えば技術の歴史を記述するのと同じように、美術について語ることはできないと考えており、美術についてこのような語り口で語る書物の題名には、storyという語を用いるのが適当だと考えたのかもしれない。
そしてまたhistoryといえば極めて人文学的な匂いの強い単語のようであるが、一方にnatural historyという領域もあって、これは博物学と訳されている。その対象や方法は今日では理科的とされるものなのだが、ここにhistoryという語が用いられる背景には、神が世界を創造したというキリスト教的な世界観があるらしい。
美術に限らず、物事を語るということはstoryを生成することであり、人間がものごとを把握し説明し理解しようとするとき、あるいはそういう行為そのものが語りと同化せざるを得ない。とするなら物語とは時間や空間とともに、人間にとって認識の形式の一つであって、あらゆる認識は物語として生成すると言えるのかもしれない。
などといったことを考えなくても、美術作品がさまざまな物語を語るものとして制作されてきた歴史があるわけだが、一方でこの、物語るということは、20世紀の美術にとっては嫌われるものでもあった。というのも、作品というものを何らかの物語を語ることへの依拠から開放し、その存在の自律性を確立することが試みられたからである。物語をはじめ、描写対象から材料から、制作におけるゆるものが夾雑物の疑いをかけられ、排斥されることで美術の純化と自律が追求されたのであった。
純化と自律はしかし、例えば美術批評や理論を図示するものとして、別の物語を語るものと認識されることから自由にはなりようがなかったとも言える。そもそも作品は何かを語ることによって作品としての存在を確立するのであって、作品として存在する時点で何かを語っていなければならないということになる。いかに物語を脱ぎ捨てても、そこに新たな物語がまといつくのが作品というものの運命なのではないだろうか。そして、物語的な表現が作品の中で再び新たな形で現れてくるのが1980年代のことであったが、それから既に30年以上を経て、作品にとっての物語の在り方も様々な試みと検討が行われてきた。
一方で陶芸作品をはじめとする工芸は、物語を語るものとしてである以上に、実用に供されるものという性格付けがなされてきた。ギリシアの壺に描かれた神話や、蒔絵で表現された古典文学の場面など、その表面の絵付けや装飾によって物語を伝えもするのだが、それは実用品の装飾であり、その実用品を生み出す技術の一つとして採用されたのが陶芸であった。だとするならば、陶芸は物語を語ることから離れた場所において、別の物語を成立させるものとして、美術の領域を成立させることが可能なのではないだろうか。あるいは、あえて物語を身にまとうことによって、従来の陶芸とは異質な表現を成立させることも可能なのかもしれない、といったようなことは言葉では考えられることだが、実際にどのように可能なのかどうかは、作家のみなさんが制作される中で作品として生み出されたものを見るしかない。
2019年末から、足掛け4年目に入って収まる気配の見えない新型コロナウイルス感染症のおかげで、個人的には実際に作品を見る機会が激減しているのだが、作家のみなさんの制作が新しい世界を切り開かれることに期待してやまない。
(おくむらやすひこ・和歌山県立近代美術館主幹)
会場住所
〒530-0047
大阪府大阪市北区西天満4-3-3 星光ビル2F
交通案内
●JR大阪駅/地下鉄梅田駅より約15分
●京阪/地下鉄淀屋橋駅1番出口より約10分
●地下鉄南森町駅2番出口より約10分
●京阪なにわ橋駅1番出口より約5分
ホームページ
http://galleryhaku.com/
会場問合せ先
06-6363-0493 art@galleryhaku.com
大阪府大阪市北区西天満4-3-3 星光ビル2F
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