ドイツ表現派の巨匠エミール・ノルデ(Emil Nolde, 1867-1956)は、色彩豊かな美しい水彩画や版画に優れた作品が多いことでも知られた芸術家です。
デンマークとの国境付近の地域に生まれ育ち、日本を含む東南アジアや南洋の島々など世界中を旅して作品にし、ベルリンなどの大都市でも活躍しました。しかし、生涯にわたって故郷の低湿地帯のもつ独特な風景と風土を愛し、それを描き続けました。1927-37年には生地に近いゼービュルに自ら設計して邸宅を建て、以後、晩年までそこで過ごしました。第二次世界大戦中にナチスから制作活動を禁じられたノルデが、「描かれざる絵」として知られる小さな、しかし大変魅力的な水彩画の数々を生み出したのも、この家でのことです。
ノルデの遺言に従って、季節ごとにさまざまな花が咲き乱れる庭とともに公開されることになった邸宅は、現在では彼の作品の質量ともにもっとも充実したコレクションをもつ美術館となっています。本展は、ゼービュルにあるノルデ美術館のコレクションから、水彩画、銅版画、木版画、リトグラフをあわせた121点を紹介するものです。ノルデの芸術を包括する6つのテーマ(風景、人物、ダンス、花、幻想、「描かれざる絵」)に分けて、全貌を展観します。