日本民藝館の創設者である柳宗悦(1889-1961)は、朝鮮陶磁器との出会いを契機にして朝鮮時代(1392-1910)の工芸美に注目し、その透徹した審美眼によって優れた蒐集を成しました。そして、その美に触発されて数々の論考を著し、展覧会を通して朝鮮工芸の魅力を世に問い続けてきたのです。
柳は晩年に「かく朝鮮の器物を好きになったのは、私にとって種々生涯の方向を定める事にもなり、うたた感慨が深い」(「四十年の回想」1959年)と述懐しておりますが、柳は民衆の日常品のなかに驚くべき美の姿を見出し、それが契機となって後の民藝美論の思索へと深められていきました。
ちなみに柳が活動していた当時の朝鮮は、1910年の韓国合併によって日本の統治下におかれ、同化政策が強引に推し進められていました。しかし、柳はそのような時流に抗うように朝鮮民族の生み出した陶磁器や絵画、彫刻、建築などに独自の美と価値を見出し、朝鮮の人々に対しても深い親愛の情を寄せていったのです。そして、1919年3月1日に起きた民族独立の運動にも理解を示し、さらには民族固有の文化を守るためにペンを持って闘ったのでありました。
今年は、そんな柳の朝鮮文化に対する自らの敬愛の想いを披瀝した、最初の著書『朝鮮とその藝術』が刊行されて100年にあたります。美への喜びを通し「互いを認め合い、平和に生きる」ことを呼びかけたこの本の意義は、けっして色褪せるものではありません。
この節目の年に企画された本展では、当館の所蔵する朝鮮陶磁器を中心とする朝鮮時代の諸工芸品の中から優品約300点を選び、一堂に展覧します。暮らしを彩った陶磁器、絵画、木工品、石工品、金工品などに表れる、民族固有の独自の造形美と深い精神性とをご堪能ください。