ホー・ツーニェンは、映像、インスタレーション、サウンド、演劇といった多領域を横断しつつ、時に妖艶に、時にダイナミックに観る者を魅了しながら、出身地のシンガポールを軸にアジアを舞台にした作品を展開しています。
本展では、奇怪かつ滑稽な100の妖怪たちが、歴史絵巻のように闇のなかを練り歩きます。そこには、第二次世界大戦中にマレー(シンガポールは1965年にマレーシアから分離)で活動した日本人も、妖怪たちに混じって登場します。ともに「マレーの虎」の異名で呼ばれた山下奉文大将と60年代のヒーロー番組「怪傑ハリマオ」のモデルになった谷豊や、その周囲で暗躍した軍人やスパイ、そして当時の思想家たち。日常の裂け目から現れる妖怪たちは、魔に魅入られた時代を映し出すでしょう。
恐怖と好奇心で大衆の心を惹きつけてきた妖怪は、20世紀以降、伝承と科学、自然と超自然、忘却と郷愁の二極の間で揺れ動いてきました。人々がその存在を信じなくなるにつれ、徐々に日常生活から姿を消していった妖怪は、今やアニメやマンガの想像上の領域で跳梁跋扈しています。近代以降に消えた妖怪とそれ以降に世界中を席巻した戦争、そして現代の日本文化―過去と現代が交わる地点に、日本の複雑な歴史や精神史が浮かび上がります。