シャガール版画の魅力
「版画」は油彩や水彩に比べて、やや軽い表現手段、と感じている方も少なくないでしょう。一点ものの油彩や水彩に比べ、版画は一つの版で数十枚から数百枚の印刷物を作ることができますが、そのことも版画を軽く見る一因になっているかも知れません。しかし、当たり前のことですが、版画には他の手段では決して得ることができない独特の表現があり、同じ作家でありながら全く異なる側面をのぞき見るような楽しみがそこにはあります。とりわけシャガールの場合は生涯に2000点もの版画作品を残しており、その数は優に油彩作品のそれを凌駕していますが、それだけに彼のこの表現手段に対する思い入れは半端なものではありません。シャガールが主に用いたのは銅版と石版ですが、表情豊かな線と微妙な明暗の階調を誇る銅版も、透明感と深みを併せ持つ美しい色彩が特徴の石版も、いずれも版画ならではの表現の楽しみを私たちに教えてくれます。
今回の展覧会では、「死せる魂」、「寓話」、「聖書」というシャガール初期の三大版画集に、「サーカス」、「神々の大地で」という後期を代表する石版画を加えて、この作家の版画芸術の魅力を存分に堪能していただきます。ピカソと並ぶ20世紀の版画の巨匠の傑作の数々をどうぞお楽しみください。