加賀藩三代藩主・前田利常は、外様大名として軍事力ではなく文化力で江戸幕府への対抗姿勢を表明しました。古今東西の名品の収集とともに利常が注力したのは、工芸の振興でした。利常は、武器・武具の製作、補修を行う工人集団を拡充して、調度類の製作にも従事させました。さらに京都や江戸から名工を招聘して、芸術的な完成度も追求すると同時に、色絵磁器のような、新たな領域にも熱心に取り組みました。利常のこうした姿勢は、五代藩主・綱紀に継承され、深められました。
そこで今回の展覧会では、前田家による工芸振興政策の成果である加賀の工芸を、「アンチ徳川」との観点から再考します。そのため、最初に加賀の地で鍛えられた刀剣である加州刀を展示し、古九谷、加賀蒔絵、加賀友禅、加賀象嵌鐙、そして大樋長左衛門、宮崎寒雉による名品約70点で、今日の工芸王国石川へと至る歴史の、戦略的な側面をたどります。