明治20年代後半から大正初期にかけて、小説の単行本や文芸雑誌の巻頭には、木版による口絵が付されました。物語の世界を華やかに彩る木版口絵は、江戸時代から続く浮世絵版画の系譜に連なるだけでなく、江戸の技術を遥かに上回る精緻な彫りや摺りが施されています。しかしながら、現在の浮世絵研究ではほとんど顧みられることがなく、忘れられたジャンルとなってしまいました。
この口絵のジャンルで活躍した主な絵師たちが、武内桂舟(たけうちけいしゅう)、富岡永洗(とみおかえいせん)、水野年方(みずのとしかた)、梶田半古(かじたはんこ)、そして、その次の世代にあたる鏑木清方(かぶらききよかた)と鰭崎英朋(ひれざきえいほう)です。本展では、木版口絵のコレクターである朝日智雄氏の所蔵品の中から約110点を厳選し、清方と英朋の作品を筆頭に、歴史に埋もれた木版口絵の美の世界をご紹介 いたします。