日本初のノーベル文学賞を受賞した川端康成(1899~1972年)は、美術にも深い造詣を持ち、鋭い審美眼で多数の美術品を収集しました。
本展は、財団法人川端康成記念会に引き継がれている収集品によって、「美術コレクター」としての川端康成に光を当てる初の展覧会です。
川端は戦後になって本格的に美術品収集を始め、原稿料の多くを注ぎ込みました。後に国宝の指定を受けることとなる池大雅と与謝蕪村の競作「十便十宜図(じゅうべんじゅうぎず)」や浦上玉堂の「凍雲篩雪図(とううんしせつず)」も戦後間もなく入手したものです。川端は、戦後の混乱した世相の中で古いものに新しい力を見出し、美によって己を支えたと記していますが、鋭い感覚を持つ作家を精神的に支えたものの中には、ロダンの「女の手」など机上の小さな美術品もありました。こうした美の体験はやがて『千羽鶴』『山の音』、そして『古都』などの名作の中に美しい結晶となりました。また川端は、シュルレアリスムの洋画家・古賀春江や、日本画家・東山魁夷など多くの画家とも親密な交流を持ち、それがコレクションに特色を与えています。画家との交友は、川端文学の装丁や挿絵などにも結実し、そこには文学と美術の交流の具体的な様子を見ることができます。
本展では、作家の心を支え、その創作にも大きく寄与した優れた美術品、身辺で愛され用いられた文房具、文学作品の装丁、親しかった画家たちの作品、それらを作家自身による珠玉の文章とともに展示し、文豪・川端康成が目指した美と文学の融合の世界をご覧いただきます。
また、川端と当市出身の写真家・林忠彦との交流にも焦点をあて、林が間近に捉えた川端康成の姿とともに、ゆかりの資料をご紹介します。