安部公房(1924-1993)は現代文学の最高峰のひとりとしてノーベル文学賞候補にのぼるなど、世界に知られた文学者です。創作活動は、小説、戯曲はもとよりシナリオ、テレビ・ラジオドラマなどさまざまなジャンルにわたり、多くの優れた作品を残しました。同時に思想家として、時代の先端を駆け抜け、広範におよぶ先鋭な文化論は、今もその読解が待たれています。このような安部公房の全容は、1997から刊行された『安部公房全集』によってはじめて明らかになりました。没後10年を経た現在、その作品と思想の読み直しがまさに始められています。
本展は、公房の生きた時代の記憶を想起させながら、その作家活動を立体的に表現しようとする試みです。また、公房が残した大量の写真と『飛ぶ男』のテキストを用いた近藤一弥によるヴィデオ・インスタレーションによって、作品創造の瞬間の再現を試みます。